認知症が「眼」でわかる? 新たな研究結果や眼と脳の関係を専門家が解説

アルツハイマー病や認知症が、眼を診断することでわかるようになるかもしれない?

  • 新たな研究で、アルツハイマー病の兆候が眼に現れることが判明した
  • この研究は、網膜組織と認知症に関する研究としては過去最大規模
  • 現在、アルツハイマー病のための眼科検査はないが、将来的に行われる可能性はあるという

    現在、米国では約580万人がアルツハイマー型認知症に罹患していると言われているが、その診断は難しいものだという。そしてこのほど、アルツハイマー病の兆候が「眼」に現れる可能性があることが、新たな研究で判明した。これは、今後の診断に役立てられるかもしれない。

    神経病理学の専門誌『Acta Neuropathologica』に掲載されたこの研究は、認知機能の衰えの程度が異なる86人の網膜と脳組織を分析したもので、網膜サンプルと認知症に関するこれまでの研究で過去最大規模であると研究チームは説明。研究では、提供された組織を認知機能が正常なドナーの組織と比較した。

    結果として、アルツハイマー病もしくは軽度認知障害のある人の組織では、アルツハイマー病の特徴である「アミロイドβ(脳内で作られるたんぱく質の一種)」が増加していることが確認されたという。また、他の細胞を修復・維持し、脳や網膜からアミロイドβを排除する細胞である「ミクログリア」が、認知機能に問題がある人では約80%減少していることも発見した。

    closeup of an eye
    BananaStockGetty Images

    今回の発見について研究チームは、「体に負担の少ない網膜検査やアルツハイマー病のモニタリングのための、信頼性の高いバイオマーカー(病気の進行や薬の効果など、体内の生物学的変化を把握するための指標となる物質)につながる可能性がある」と結論付けている。

    眼科検査によるアルツハイマー病診断の可能性と、そもそも眼を見ることがどのように診断に役立つかなど、気になる疑問について、以下、専門家たちが解説してくれた。

    アルツハイマー病の兆候が眼に現れる理由

    実は、アルツハイマー病と眼を関連づけた研究は今回が初めてではない。米国眼科学会(AAO)は、脳組織と眼組織の間に明確な関係があることを示す研究がある、とオンラインにて回答。

    アルツハイマー病やその他の認知症に罹患した場合の網膜の変化、特に網膜の層や眼球内の血流の変化については、すでにいくつかの研究で明らかにされている。眼底蛍光寿命測定(FLIO)を用いた別の研究においても、画像処理技術により網膜のアミロイドβを測定することが可能になっている。パーキンソン病や狂牛病のような脳の病気を持つ患者の眼球組織にも変化があることが研究で判明した、とAAOは述べている。

    では、これらの病気はなぜ眼に兆候が現れるのだろうか? 「網膜は脳の延長線上にあると考えられています」と話すのは、研究の共同著者であり、米シダーズ・サイナイ医療センターで脳神経外科と生物医学の教授を務めるマヤ・コロニョ=ハマウイ氏。「網膜は唯一、骨に包まれていない中枢神経系器官です。そのため、高空間分機能と感度で負担をかけず、手ごろに可視化しやすいのです」

    optometrist examining retina on computer in clinic
    PortraGetty Images

    また、ミシガン州立大学で神経科のメディカル・ディレクターを務めるアミット・サチデヴ医学博士は、脳と眼の間には神経が通っていると説明する。「神経細胞には、本体部分と軸索があります」「本体には、神経の維持や成長を調整するための重要なパーツがすべて含まれており、軸索はとても長い尻尾のようなものなのです」

    軸索は長く、どこかにダメージを受けると変性し始め、「多くの場合、先端から本体に向かう形で起こります」とサチデヴ博士。「眼を見ることは、神経の先端を見るようなものです」「その神経は脳の奥まで続いています。ご想像のとおり、脳の病気が健康を妨げるかもしれません」

    脳に影響を与える病気の多くは、視神経や網膜に何らかの影響を与える、と米ヴァンダービルト・アイ・インスティテュートのデヴィッド・J・カルキンズ博士はコメント。「これは、中枢神経系の一部である視神経や網膜の構造体が、脳で使われているものと同じ分子機構を多く使用しているためです」と彼は述べる。「脳に異常が起きると、少なくとも死後の組織では、網膜にその兆候が見られることが一般的です」

    現在、アルツハイマー病はどのように診断されるか

    米国国立老化研究所(NIA)によると、2000年代前半まで、アルツハイマー病かどうかを確かめるためには患者の死亡後に行う剖検しかなかったため、医師はアルツハイマー病の可能性を疑うことしかできなかったという。

    だが現在では、アルツハイマー病の兆候を探すために幾つかの検査を行うことがある。NIAによれば、脊椎穿刺で脳脊髄液を採取してアルツハイマー病や関連する認知症につながるタンパク質のレベルを測定したり、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像(MRI)、陽電子放射断層撮影(PET)などで脳スキャンを行い、アルツハイマー病の診断の材料にしたり、症状の原因として考えられる他の病気の可能性を除外しているとのこと。

    human brain scan in neurology clinic
    Westend61Getty Images

    「アルツハイマー病の治療のための薬もできましたが、診断を下し、その薬の対象となるには、体に負担をかける、かつ高価な検査が行われます」とサチデヴ博士。「診断を下すための新しい方法が必要です」

    では、今後アルツハイマー病のための眼の検査は実施される?

    残念ながら、現在はまだその段階には至っていない、というのが専門家の見解。カルキンズ博士が指摘するのは、この研究が死後組織で行われたという点。「網膜を調べるだけで認知状態を予測できるかどうか、現時点では結論を出すことは難しいでしょう」と彼は述べる。これにはサチデヴ博士も同意している。「実用的意義は……今のところありません」

    しかしカルキンズ博士は、今回の研究は脳の健康と網膜の健康の関連を強固にするものだと説明。「分子ツールボックスの感度が上がれば、代用として眼科検査を行い、潜在的な認知症をより早く発見できるようになるのではないか、と私は期待しています」と述べている。

    ※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。

    From Prevention

    Korin Miller is a freelance writer specializing in general wellness, sexual health and relationships, and lifestyle trends, with work appearing in Men’s Health, Women’s Health, Self, Glamour, and more.
     高校生時代にアメリカンカルチャーの影響を受け、大学在学時にアメリカ・シアトルにてホームステイを経験。海外ドラマに関するWEBメディアでライターを務める。海外エンタメ・セレブ、ロイヤルファミリー、ヘルス・ウェルネス記事をメインに、翻訳を担当。手話技能検定3級、世界遺産検定2級、アロマテラピー検定1級を持つ。 
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