【コーチが伝授】パフォーマンスと気分を高めるランニング中の呼吸法

科学に基づいたスキルを習得!

two women running in the countryside
Westend61Getty Images

普段から呼吸のことを考えている人は少ない。吸って吐いてのアクションは自動的に起こるから。でも、ランニング中は息をするのが大変なので、みんな呼吸に意識が向く。

ランニングの序盤で息が切れるのは、体内の酸素濃度が低下するから。ランニングを始めたばかりの人や運動経験の少ない人はとくにそう。ランニングコーチのレベッカ・ストウによると、この場合は呼吸を“深くする”といい。「横隔膜から息をして、胸郭をすき間なく空気で埋めてあげましょう。浅くて短い肺呼吸は避けたほうがいいですね」

アメリカのミネソタ大学メディカルスクールでスポーツ医学プログラムディレクターを務めるウィリアム・ロバーツ医学博士によれば、息を吸うと肺の中にある小さな袋(肺胞)が新鮮な酸素で満たされて、細胞レベルで血中の二酸化炭素と交換される。

この新鮮な酸素は血中に送り込まれて、全身に運ばれる。その一方で、二酸化炭素は呼気と共に吐き出される。でも、このプロセスには肺だけでなく、横隔膜を含む多数の筋肉の力が必要。このプロセスが自動的に起こるのは、「脳が血中酸素濃度の低下を感知して、『もっと速く、深く息を吸いなさい』と体に“命令”するからです」とロバーツ博士。

ランニング中の呼吸法をマスターすれば楽に走れるようになるだけでなく、長期的な運動パフォーマンスが1~5%向上することもある。また、学術誌『Frontiers』に掲載された2022年の研究結果によると、呼吸法は心理面にも働くため、ランナーの運動耐性、気分、トレーニング習慣の改善に役立つ。

これを機にエキスパートがアメリカ版ウィメンズヘルスに伝授してくれたランニング中の呼吸法を身に付けて、あなたの走りを次のレベルに持っていこう。

ランニング初心者向けの呼吸法

three woman workingout
Jordi SalasGetty Images

アメリカのロードランナーズクラブ認定ランニングコーチで、1992年のバルセロナオリンピック米予選ファイナリストのゴードン・バコウリスによると、ランニング中は呼吸のことを考えすぎないほうがいい。ランニングの初心者は以下の点を意識して。

①落ち着いたリズミカルな呼吸をする

初心者のうちは呼吸ペースに固執しないで。バコウリスによると、ランニング中は口を開け、空気の出入りを考えないようにすればいい。

②“おしゃべりができるくらい”のペースで走る

バコウリスによると、これは楽に呼吸を息をしながらも体の強化・コンディションが可能なペース。最初の4歩(右左右左)で息を吸い、次の4歩で息を吐く。

③長距離はパートナーと

長距離はおしゃべりができるくらいのペースでないと走れないので、実際に友達としゃべりながら走るといい。「楽に話せないほど息が上がった状態で長距離を走り切ることはできません」とバコウリス。YouTubeで一流マラソンランナーの動画を見れば、彼らの呼吸もゴール前を除いて落ち着いていることが分かるはず。

④正しい姿勢を崩さない

背筋を伸ばして走れば、呼吸が楽になるだけでなく正しいフォームもキープしやすい。バコウリスいわく、前かがみになって走ると、上り坂では特に呼吸が浅くなる。「肩の力を抜いて胸を開けば、息が深く、目一杯吸えるようになりますよ」

⑤ランニング後の呼吸を整える

走ったあとは数分で安静時の心拍数に戻るべき。息切れがそれ以上続くのは、無理をしていた証拠。ランニング中ずっと息が切れている人は、運動誘発性ぜんそくの可能性があるので、総合診療医かスポーツ医学専門医の診察を受けるべき。


あなたの走りを最適化する5つの呼吸テクニック

もっと楽に効率良く走りたいなら、次の呼吸テクニックを試してみよう。

4:4ボックス法:「軽いランニングでは、4秒かけて息を吸い、4秒止めて、4秒かけて息を吐き、4秒止める4:4のボックス呼吸法を使うことが多いです」とストウ。

2:2リズム法:息を吸いながら2歩(右足と左足で1歩ずつ)進み、息を吐きながら2歩進む。これ(および以下の3つ)は呼吸のリズムを運動のリズムに合わせる呼吸法で、運動呼吸同調(LCR)と呼ばれている。科学専門誌『Plos One』掲載の論文によると、LCRでは横隔膜にかかる負荷と呼吸筋にかかる負荷のズレが小さくなるので、吸って吐いてが楽になる。

3:3リズム法:3歩かけて息を吸い、3歩かけて息を吐く。

2:1リズム法:2秒かけて息を吸い、1秒で息を吐く。科学専門誌『Science』掲載の論文によると、ほとんどのランナーは、この呼吸法を自然と好む。呼吸筋にかかる負担が最小限に抑えられるので、ランニングが楽に感じるというメリットも。『Plos One』が掲載した別の論文によると、ハードな耐久レースには、この呼吸法が一番良い。

3:2リズム法:ランナーの中には3歩かけて息を吸い、2歩かけて息を吐くタイプのLCRを好む人もいる。スローペースのランニングでは、これが一番良いかもしれない。

プロのアドバイス:ストウによると、ケイデンス(1分あたりの歩数)に合わせて呼吸法を変えてみよう。その都度、体の反応と気分をチェックしていると「トレーニングの中身に応じて違うテクニックを使うことになるはずです」


ランニング中に息が苦しくなるのはナゼ?

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Martin NovakGetty Images

認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストでニューヨーク大学ランゴン・スポーツ・パフォーマンスセンターに所属する運動生理学者のヘザー・ミルトンによると、ランニング中は安静時やウォーキング中に比べて、息を吸って吐く時間が短くなりがち。「そうすると、肺に入る酸素の量が減少します。でも、肺は呼吸のたびに酸素で満たしたいところ。ランニングで使われる筋肉にエネルギーを供給し、無理なく走り続けるためには酸素が必要ですからね」

横隔膜は肺の底にある筋肉。思い切り息を吸うには横隔膜を収縮させて、思い切り息を吐くには横隔膜を弛緩させなければならない。

でも、ランナーの中には「横隔膜を最大限に活用していない人がいます」とミルトン。「その結果、二酸化炭素(ランニングの副産物)の排出が制限されると、肺に入って血中に送られる酸素の量が減少します」

ランニング中に息が苦しくなるのは、息をするのが実際に大変だから。「走るときは 歩くときより体に頑張ってもらう必要がありますからね」とミルトン。「体幹を使って体を安定させなければなりませんし、呼吸筋にも大きな負荷がかかります」

ストウいわく走るペースが上がるにつれて筋肉に送られる酸素量は減るけれど、トレーニングを続けていれば体が徐々に強くなるし、長い距離にも慣れてくるので大丈夫。

でも、ランニング中の息苦しさには心理学的な原因があることも。

「ランニングでは、自分をコンフォートゾーンの外に追い出すことが多いですよね」とストウ。「この限界に追い込まれているという意識が不安やストレスを引き起こし、余計苦しく感じることもあります」

ランニング中の息苦しさや胸の痛みがぜんそくの存在を示していることもある。ロバーツ博士の話では声帯機能不全(不安が原因で息を吸うときに声帯が開く代わりに閉じてしまう病気)の可能性もあるので、必ず医師に相談を。

ランニング中は口と鼻、どっちで息をするべき?

ランニング中の呼吸法に絶対コレというルールはない。

ミルトンいわく大事なのは、落ち着いたリズミカルな呼吸をすること。「つまり、落ち着いたリズミカルな呼吸が維持できるなら、鼻からでも口からでもいいということです」

ペースが落ち着けば、自然と口呼吸が多くなるはず。でも、ロバーツ博士の話では、肺を出入りする空気の量が増えるように鼻と口の両方で息をしたほうがいい。


ハイペースのランニングやスプリントに適した呼吸法

全力で走るスプリントでは、最適な呼吸法が人によって大きく異なる。「スプリントにおける呼吸法はコーチと決めるのが一番です」とロバーツ博士。「私は100メートルで1呼吸、あとは必要に応じて息を吸えばいいと教わりました」

スプリントでは呼吸の“深さ”に特段の注意を払って。ペースからして胸呼吸のほうがいいように思えても、お腹の奥から息をすること。

そうすれば、吸い込まれる酸素の量と吐き出される二酸化炭素の量が増えるので、体が疲れにくくなる。また、横隔膜がけいれんし、脇腹が痛くなることも減る。

さあ、あとは練習あるのみ!

 

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Erin Bunch And Addison Aloian Translation: Ai Igamoto

Erin has over 15 years of experience as a journalist and professional writer.
Addison Aloian (she/her) is an editorial assistant at Women’s Health.
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